お知らせ
令和8年8月法話「広由本願力回向 為度群生彰一心」
広由本願力回向 為度群生彰一心
安芸教区佐伯東組光乘寺 中村啓誠
お正信偈のこの言葉は、インドの天親菩薩の『浄土論』という書物のこころを、親鸞聖人が要約してくださったものです。「本願力回向」(ほんがんりきえこう)とは、「迷いの世界で苦しんでいるすべてのいのちを、わが浄土(さとりの世界)に生まれさせよう」という阿弥陀さまの願いのはたらきが、わたしたちに施されていること。「一心」(いっしん)とは、その広大なはたらきをわたしたちが受け取ったすがた。信心のことです。
もともと阿弥陀さまの本願には、「至心(ししん)・信楽(しんぎょう)・欲生(よくしょう)」という三つの心が、浄土に生まれるための信心として誓われていました。でも愚かなわたしたちにわかりやすいように天親菩薩は、「信心とは、三つの心をわたしたちの側でおこすことではなくて、はからいをまじえずにただ仏さまにおまかせすることなんですよ」と知らせるため、「一心」(はからい=疑いの心をまじえないこと)という言葉で信心を表現してくださったのでした。ですから、ふだんわたしたちが「一心不乱に」という時のような、〈わたしが一生懸命になって心を一つに集中する〉という、かたくなな意味とはちがうのですね。〈一生懸命〉なのは、阿弥陀さまのほう。わたしたちを苦しみの世界から救うために、大変なご修行をなさって完成された阿弥陀さまの願いのはたらきが、南無阿弥陀仏というお念仏となって、もうわたしに届けられている、というのです。
テレビ朝日系で放送中の「夫が寝たあとに」は、MCの藤本美貴さんと横澤夏子さん(二人とも三人の子持ち)がママ会的なノリで、夫や育児にまつわる「あるある」を本音で語りあう番組。その中に、MCの二人やゲストが短歌をつくって、歌人・俵万智さんに講評してもらう「育児短歌」というコーナーがあります。人気企画なので、本として出版もされました(「みんなの短歌」マガジンハウス社)。
おかあさん 見て見て見てよこっち来て 見て見て見てるやってみてみて(横澤さん)
いつ終わる 寝られないのはいつまでだ 昼爆睡で夜には寝ない(藤本さん)
危ないこと していないかと子を見れば 危ないことしかしておらぬなり(俵さん)
育児で悪戦苦闘している親御さんが「あるある!」と共感しそうな短歌ばかり。微笑ましくもあり、切なくもあり、「がんばれ!」と応援したくもなりますね。でもその苦労の中にどこか、〈子どものための苦労って、なんだかうれしいな〉という、親のよろこびも歌われている気がします。
わっしょいと子ども神輿(みこし)を引く娘 帰りは抱っこ親がわっしょい(横澤さん)
舟になろう いや波になろう海になろう 腕にこの子を揺らし眠らし(俵さん)
親に抱っこされ、安心してすやすや眠っている子ども。自分の力でそうなっているのではないですよね。絶対に落としはしない親のたのもしさにまかせきって脱力しているからこそ、安心出来ているのです。浄土真宗で言う「一心」も、そんな感じ。わたしが力を込める話ではなくて、「あなたのことを放っておけない。必ず浄土に生まれさせる!」という阿弥陀さまの願いのはたらきにまかせきって、脱力したすがたのことだったのですね。
おまかせしたら、〈死んでゆく人生〉は終わり。わたしたちは、『お浄土に生まれて仏さまにならせていただく人生』を歩み始めました。自分の力ではけっして解決できない、いのちのゆくえについて安心させてくださる、たのもしい阿弥陀さまに出遇えたのですから。そんなわたしたちの幸せなすがたが、「一心」なのです。
中村啓誠
1969年8月24日生。
安芸教区佐伯東組光乘寺衆徒。
本願寺派布教使。
布教研究専従職員を経て、現在布教使課程専任講師。
広島県呉市在住。
